シャッター商店街が抱える爆弾~彦根市銀座商店街を例として~

2023年11月29日水曜日

social 意見には個人差があります 街づくり

 父が亡くなって、そろそろ相続処理の期限を迎えるため、日々、税理士や司法書士とやり取りをしておりますが、頭を抱えているのが銀座商店街の旧「ノムラ文具店」の土地・建物です。

 これが現状弊社と野村家の大きな「負動産」となっています。

 

  今まで、弊社ヤマノ商事とノムラ文具店は法人を別にしていました。亡父としては、祖業の法人格を残したいという思いと、逆に自分が立ち上げたヤマノ商事で地平を拓きたいという思い、更に、有限会社の法人格が再取得できなくなっていたので何かしら役に立つのではないかと思ったからのようですが、ほんとにこういう面倒は生前に片付けておいてほしかった。(゜.゜) 

 

 まず一つ、有限会社というのは「インボイス」が導入された今となっては特にメリットはないのです。政府は有限会社どころか個人事業者からも厳密な会計提出か、商売上の不利益かの二択を迫ってるわけで、有限会社格を残しても何らの特典はない。

 税理士事務所から2回分の決算費用を請求されるわけだし、自分が見てる収支以外に会計があって、そこはあまり金銭の出入りがないとはいえ、全体の管理から漏れてしまう。

  それで、相続に伴い、(有)野村ビルの清算とヤマノ商事(株)との「統合」を司法書士にお願いしているのですが、 行政というか、日本の固定資産税法(地方税法)に日々激怒する毎日です。


 方法としては、亡父の相続で、一部は亡父の資産となっていた銀座の土地と建物の全体を退職所得控除を利用して相続し、それをヤマノに「売却」して、野村ビルを清算し、最終的に統合しようという話なのですが、税理士の先生から「野村ビルの公示価格から出した価値が「簿価」より上回るため、差額を売却益として計算したら、それに400万円近い法人課税が発生します」と言われました。ふざけんなと思いましたよ。利益どころか、売ってもいないのに。

 

 土地価格というのは、国土交通省主管の公示価格、国税庁主管の路線価のほかに、都道府県主管の都道府県基準地価、更に固定資産税評価額があります。(実勢価格含め、一物5価です)

 相続の時には路線価の8割といわれる公示価格が使われますが、それが全く実勢を反映していない。ほとんど収益が出ない2023年現在の銀座の土地・建物で毎年固定資産税が数十万徴収されることも腑に落ちないのに、一般的な鑑定法である収益還元法(不動産から収受できると予想される収益から価格を算出する方法)、原価法(土地や建物の再調達価格を推定して積み上げる手法)からほど遠い「価値」が算出されています。

(後述の書籍の筆者によると鑑定士が「鉛筆舐め舐め」、地図を見ながら、適当に数字を埋めてるらしい)

  こんな価格をはじき出すなら、国税庁、この価格で買いとってくれやヽ(`Д´)ノといいたい気持ちが沸々と。半額でも売ってやるよ、今すぐ売ってやるよ!と怒鳴りたい勢い。

 かといって、これをそのまま丸呑みもできないので、やむなくシバタ不動産さんに紹介いただいた草津の不動産鑑定士の方においでいただき(鑑定費用だって大卒初任給くらいの支払いが発生します)、鑑定額を出していただきました。それすら、実勢額からはるかにかけ離れている。税法上は死人でも出ない限り(事故物件化 )それ以上の減額は見込めないとのことで、その数字で税理士に処理をお願いしています。私が納得できようができまいが税務署は惰性で冷酷でお役所仕事です。

 

  そこで、銀座街近隣の方、或いはどこかのシャッター商店街の店舗を相続する誰かの参考にするべく、ひところは彦根を代表した「銀座街」の一角の鉄筋ビルがなぜ「負動産」化必至なのか、ここにまとめさていただきます。

 

 まず、既に彦根銀座街の多くの建築物が築50年を経ています。なぜ建て替えられないか、なぜ、不動産市場に再流通しないのかといえば、ほとんどの商店が隣家と棟続きの長屋ビルにされてしまっているからです。3軒から5軒くらいごとに長屋状態になっている。もちろん、中で行き来はできません。水道はメーターを同じにしている可能性が高い。

 弊社の野村ビルも隣家2軒と建物を同じくし、屋上はうちからしか上がれませんが(給水タンクはうちにある)、水道の元栓は隣家にあります。隣家にメーターを見てもらわないと、水道も止まります。

 隣家はすでに銀座での商売をやめて他に移っています。一軒先の旧洋品店は1階を物流会社の仕分け場として賃貸に出しています。3者の利害が一致しないから修繕一つできない。

 なぜ、こんな仕様になったのか、これは彦根市の政策だったと聞きます。資料の裏付けをしていませんが、父によると、1970年ごろの弊社ビルの建設の時に、彦根市から提示された補助金の条件は、「防災ビル」にすること。それはすなわち、芹川からの氾濫と、火災の防波堤になるべく隣家と棟続きで建設せよというものでした。

 彦根市、少しは責任を感じてくれよ。ヽ(`Д´)ノ

 それで、もともとは「野村紙店」の敷地だった半分を売却し、それを建築費に充て、3軒棟続きの銀座エースビルが竣工しました。 それから30年くらいは彦根銀座街は彦根市の中心として栄えましたが、その後、1996年のビバシティ開業、2005年のカインズモール開業などに客を奪われ、後継もない店が次々と閉店して、今に至るわけです。

 

 さて、シャッター商店街になった今、銀座街の商業物件をどうしていけばいいのか、これは老朽化した郊外のマンションの建て替え問題と同じ苦難を伴います。

 まず、合意形成が難しい。 これが東京や大阪の繁華街にあれば話は別でしょうけど、解体しようにも、建て替えようにも、今の銀座には「需要」がないのです。となると修繕すら自由にできない。

  弊社の野村ビルは、5,6年前に父が外壁の修繕を行っています。その時、隣家にも同時修繕を打診しましたが、意見がまとまらず、結局弊社の店舗に面する部分のみの修繕になりました。 当然躯体の寿命に大きく影響があります。

 

 老朽化マンションでも好立地なら増設分譲分の収益で居住者には少ない負担で建て替えの建築費が賄える例はあります。

 しかし、既にシャッター商店街と化した彦根銀座ではわざわざそんな手間のかかる物件を購入、或いは入居せずとも、近隣に駐車場になった更地や、廉価でも借り手のない物件はごろごろしています。そうなると、わざわざ投資をして解体したり、建て替えたりする商店主は皆無。

 結果、うちもシャッターを下ろして10年、固定資産税分の収益すら取れない不良物件と化しました。

 そして、工務店からは弊社ビルを解体しようと思えば、ざっと数千万円はかかると言われています。つまり解体費を計上するなら不動産市場だと0円以下の価値です。そりゃそうだ。竣工が50年前ですからアスベスト使用の可能性まで指摘されました。

 解体も耐震補強もできず、住宅にもできず、駐車場にもできないコンクリートの塊を「資産計上」して、ただただ毎年数十万の固定資産税を召し上げられる。こんな理不尽ありますか?

 

 この異様な税制は、今の日本のいびつな土地税制の裏返しです。

 「マンション節税」という言葉を聞いたことがありますか。 ここからは牧野 知弘『負動産地獄 その相続は重荷です』という新書をテキストにしますが、2009年の裁判でその「スキーム」に歯止めがかかりました。

「タワマン節税」に歯止め マンション1室の評価額、時価の6割に引き上げ 清三津税理士が解説

 これはざっくりいうと、公示価格と実勢価格に差があるタワマンの上層階を借金で購入することにより、現金資産を圧縮し、相続課税を逃れようという「節税」方法なのですが、あまりに露骨に行われたため、国税庁が納税者を訴えたのです。

 2016年この悪質な「節税」(マンション購入額の25%に圧縮)に税務署は、鑑定評価を取り、2つ合わせ12億7300万とし、相続税2億4000万の支払いを求め法廷闘争。結果、税務署が勝訴しました。

 これについてはざまあ見ろ!以外の感想を私は持たないのですが、逆に、かつては高価格で取引された物件が商況の変化で暴落しているにもかかわらず、固定資産税がほとんど下がっていない「旧商業地」評価について、大きな疑問と不満を持ちました。

 

 地価公示地価調査を見ると、 彦根市銀座町に定点はなく、比較的近い彦根市本町1丁目293番2000年の公示地価90,500円、2023年が89,500円となっています。ほとんど下がってない!

 でも、実勢価格を見ると(しかも計測地点が違う!)佐和町9-27が、2000年14万円が、2023年は76,300円(ただし、なぜか計測地番が変わっている)まで下げている。半額ですよ。

 にもかかわらず、2000年代と同じ固定資産税を徴収されるこの理不尽といったら。 そこに加えて、銀座町のような壊すに壊せず、売るに売れない長屋ビルをこれから行政はどうするつもりなんでしょうか。

 税理士に、あまりにも実勢価格とかけ離れてることの不満を口にしたら「裁判したらどうですかね」と半笑いで言われて少々イラっとしました。

 調べてみると固定資産税の評価についての裁判はいくつか行われていますが、当然ながら訴訟費用と時間が相応にかかります。一人ではとてもできないけれど、銀座街のどなたかが国を提訴するならば私も参加します。


 私は出席しませんでしたが、5,6年前に彦根市がURをコンサルに迎えた銀座街の再生計画的なプランを見せられたことがあります。中央にシンボル的なモニュメントを置いたそのパースを見たとき思わず失笑が漏れましたが、いったいこれの解体・建築費、誰が出すつもりでこのプランを出してきたのさ、と、くらくらしました。そんなお金出せるような余力がシャッター商店街の店舗にあると思いますか?と。

 彦根市はどれだけ補助金を出すつもりでURにこんな不毛な案を開陳させているのかと。そして、それを回収できる試算はしたのかと。


 先の『負動産地獄 その相続は重荷です』にはシャッター商店街の今後を不吉に予言する税制の罠についての記述もありました。

 弊社野村ビルは住居としての利用をしていませんでしたから、税制上の優遇措置がないまま、固定資産税を支払っています。しかし、何割かのシャッター商店では、1階を店舗、2階を住居としている事業主がみられます。あるいは、以前は住んでいたけれども今は住んでいない物件もあるでしょう。それらの物件は「店舗付き住宅」の税制優遇を受けています。

 通常の店舗なら、住宅用部分が半分以上なら、固定資産税は小規模住宅地と同じ6分の1に、都市計画税は3分の1に減額、相続時には小規模宅地等特例で住宅部分の特定居住用宅地330平米、店舗特定事業用宅地400平米までの合計730平米の評価額が8割減免されます。

 しかし、これを相続した場合、店舗を営んでいない土地・建物を相続するので、税制上の特典は消失、固定資産税は一気に数倍に跳ね上がり、シャッター商店街ゆえに売却もできない。

  今から、親世代が存命のうちに、その活用方法、処分方法を考えていかなければ、子供世代は老朽化する店舗の管理と、毎年やってくる固定資産税通知書に悩まされることになります。こうなってくると、相続放棄の可能性さえあり得る。

 

 ならば、シャッター商店街に見合った固定資産税評価はなされるべきだし、その活用について地方行政はもっと早くから事情を調査し、安い賃料であろうと、閉店後の店舗を引き受ける事業者を斡旋し、シャッター商店街化を阻止または遅延させるべきだったのではないかと私は思います。

 それが実勢評価に見合わない高い固定資産税を徴収し続けてきた行政の義務ではないでしょうか。

 

 そして、商店街全体の建物の老朽化が問題になっている今、自治体が解体費用を全額出すくらいのことを言ってもらわない限り、銀座街は廃墟化すると思います。

 半額補助程度なら、「出せない店舗」が出てくるだろうし、高齢の店主が2階に住んでいて、解体時の一時転居費用が賄えないとか、解体したら固定資産税が上がるから解体したくないという人が出てこないとも限りません。 

 

 ありうべき銀座街の再生を考えるなら、何かしらシンボル的な観光地、例えばすでに閉店したやまの湯滋賀銀行銀座店を活用して観光客がここまで来たいと思うような「ランドマーク」 的なものを作ること。

 滋賀銀行の建物を利用して、彦根城博物館の別館くらい作ろう!今更やまの湯の復活は無理だと思うけど、「やまの湯カフェ」ならできるかなと思います。廃業したお風呂屋さんをカフェにしているところがある。⇒レボン快哉湯

 どなたか若い方に託して、あの荒れた裏山を畑と果樹園にしてオーガニックのメニューを出すカフェを営業したら流行ると思います。ほっといたら多分遠からず解体される可能性が高い。

 合わせて、シャッター商店街の店舗のシャッターの中のスケルトン化、或いはリフォームに助成金を出し、借主を斡旋し、年間収益が固定資産税+α程度であったとしても、そこがきちんと商業区画として保たれるような「手入れ」をしていくべきだったと私は考えます。

 本当に廃墟になる前に(現実問題として壁が落ちるなど喫緊の耐震問題が解決されないまま放置されている)彦根市は見て見ぬふりをせず、積極的に調査や対応に動いていただきたいと思います。 

「クレヨンしんちゃん」「サザエさん」の家はセーフで「ちびまる子ちゃん」の家はアウト…実家の空き家が“昭和の負の遺産”になるボーダーライン (集英社オンライン)


追記)11月30日をもちまして、(有)野村ビルは清算法人となりました。感傷で事業継続はできない。改めて胸に刻みます。