「屋根」はだいじ。「壁」もだいじ。「持ち重り」しない街づくり

2022年3月17日木曜日

social 街づくり

 戦争に加えて、地震まで起きて肝が冷えました。東北ではまだ断水が続いています。また鉄道も一部不通が続いていますが、幸い絶望的な被害にならずに済んだようです。皆様ご無事ですか。


 ロシアのウクライナ侵略報道を見ていると涙が出ます。

 何本か書いた記事にあるように、私は、今あるものを壊したり捨てたりすることに、「もったいない」と罪悪感があり、「屋根があるなら大事にしたい」という思いがとても強いのです。

 ウクライナにある、その「屋根」や「壁」が、ロシアによる悪意の攻撃で破壊され蹂躙されている。

 ロシア軍の包囲の続くマリウポリで昨年末開業したばかりの大型ショッピングセンターが廃墟になった写真を見ました。何が痛いって、自身で企画しているとわかりますが、商業施設も、個人の住宅も、あらゆる建物が生まれ、育って、受け継がれていくには多くの人の思いが必要なのです。たくさんの人の着想や思いが何重にも込められ積み重なって、いまそこにあるのです。ドアの材質、タイルの選定から壁や庭木の好み、屋根の形、その中に集められた調度品や張られた壁紙、すべてに誰かの意思が宿っています。古い建物ならなおさらです。そうやって積み上げられた「思い」が無軌道な暴力で失われるのが本当に我が事のようにつらいです。

 何でもかんでも残せなんて思ってません。でも、特に古く大切に受け継がれてきた建造物は人の思い、作った人の思いも、そこに触れた人の思いも重層的に積み重なっているものだと私は思います。キーウ(キエフ)のあの美しい街並みが攻撃され失われるかも、とか、本当にあり得ないと思います。

 一刻も早く、ウクライナに未来を残す停戦が結ばれることを願ってやみません。


 私が古い建物を活かせと強く主張したいのは、新しく何かを作ったり建てたりするのは「持ち重り」がするからです。

 東日本大震災から11年で、福島県双葉町に帰還者約80世帯用の住宅が180億円弱かけて整備されたそうです。狂気です。漁にも出られない、山にも海にも入れない閉じられた「除染バブル」でどんな生業が成り立つのか。

 当面は復興のアリバイ作りに80世帯を無理にでも埋めるでしょう。でも、早晩破綻します。あなたはそんなバブルの中に住みたいですか?私は絶対いやです。そんな人生、どこの実験ハムスターですか。

 それでも、1世帯2億もかけて整備した住宅を埋めるため、東電と政府はあらゆる手を使ってそこに誰かを住まわせようとするでしょう。こんなくそみたいな嘘に元住民でも乗りようがないじゃないですか。税金だからできる愚の骨頂。

 今、福島原発事故にかかわる「生業(なりわい)訴訟」が起こされていて、今年中に最高裁判決が出るそうです。原発事故で福島を追われた人は、そこに戻れさえすればいいわけではない。仕事があり、住宅があり、近所づきあいがあった、その「場」を破壊した原発事故の、その許せない理不尽を訴えているのです。お金のためではないのです。そもそもお金で「思い」は買えないのです。

 

 「持ち重り」という言葉は東大名誉教授の上野千鶴子さんの著作に学びました。

 彼女は「老人ひとり死」を研究していて、「不足」していると言われている老人介護施設をこれ以上作るなと説きます。施設を作るにはカネや人がかかる。一度カネや人をかけたら、今度はカネや人を回収する目的で施設への無理な入居を政治や経済に働きかけるようになってしまう、と。

 そうなると、「高齢者のために作られた介護施設」ではなく、「介護施設の経営のために収監される高齢者」という構造に転じて、いずれは金もうけの道具になってしまう。それは高齢者自身のためにならないと。

 これ、街づくりや投資にも 言える、なかなかの至言だと思います。

 

 弊社の物件は、今ある屋根と壁を使っておりますので、借り入れをせずに済むぎりぎりの投資予定額ですんでおりますが、これをゼロから作り、その投資回収を視野に入れると、どう考えても無理が生じます。彦根の地勢に見合わない投資はついには破綻を招くでしょう。 

 私は、それよりも、「百貨卸センター」という、50年来の誰かの思いを残しつつ、それをリノベーションして商業物件化するという方法を模索しています。

 今ある地勢に見合った形で、今ある「屋根」と「壁」を活かし、今ある町をよくするための方法を考える。あらゆる投資に住民のための「適正規模」はあるのです。過剰投資は地球破壊でしかありませんし、更地の駐車場にするのは、今の彦根では多分死地にするのと同じでしょう。

 

 「持ち重り」しないよう、今ある「屋根」と「壁」をどう有価物に替え、街の活性化につなげていくか。私自身は、これは本来「自治体」が主体になって進める仕事だと思っています。 

 たとえば、空き家だったり、シャッター商店街だったり、使われないで、住まわれないで、放置されている「屋根」と「壁」が日本国内に大量に「腐って」います。個人では難しいかもしれないけれど、役所が本気で街を再生させたいと思うのなら、空き家を 循環させる仕組みや、シャッター商店街のシャッターを開ける方策、いくつかは可能性があると思います。

  例えば、松戸市はMAD CITYという官民連携のプロジェクトで、シャッター商店街にしないための不動産マッチングサービスを手掛けていますし、Renovate Japanの手掛けるソーシャルサービスでは、空き家をシェアハウスにして困っている人に住居と仕事を提供する事業を行っています。

 

 ウクライナの戦禍で破壊された街を見るに、屋根と壁があることがどれほどありがたいかと痛感します。

  古いものをどう次に必要な規模にして、持続して、無駄なくつなげていくかは、地球規模の課題なのです。

 

追記)

311、11年を前に公開された、山本太郎×元東京電力社員で、拉致被害者家族の蓮池透さんの対談が公開されています。現在の原発行政や被爆基準がいかにひどいか、 を改めて検証する内容になっています。この状況で双葉に復興住宅って、ほんとないと思うわ。

 ジャズ演奏を絡めて、地方局の番組くらいには洗練されて見やすいので、ご興味ある方はご覧くださいませ。

あれから11年【山本太郎 in JAZZ LIVE SHOW #3】 ゲスト:蓮池透  

現状の原発の廃炉が実はどういう状況なのか、青木理氏のJAMTHEWORLDで、朝日新聞記者の吉野実さんに話を聞いてます。一言で言うと日本は全部でたらめ!必聴です。無料。

2022-04-19 青木理「福島第一原発取材・廃炉について」

 

*画像は彦根城の桜です。間もなく開花します。